「徹底討論−次の東海地震はどこだ」

 2007年1月12日(金)名古屋大学環境学研究科地震火山・防災研究センター安藤雅孝教授の呼びかけに、最前線で研究をされている各専門分野のエキスパートが賛同して「徹底討論−次の東海地震はどこだ」は開催されました。会場の名古屋大学野依記念学術交流館カンファレンスホールには内外の研究者、一般の聴講者、報道関係者など100名を越す来場者があり、活気に溢れた討論会となりました。



「徹底討論−次の東海地震はどこだ」
日時:2007年1月12日(金)13時30分-17時
場所:名古屋大学野依記念学術交流館カンファレンスホール
主催:名古屋大学環境学研究科地震火山・防災研究センター
参加費無料,事前登録必要なし
ポスター(PDF178KB)

プログラム
I 部 1944年東南海地震と想定東海地震の震源域
13:30  司会 渡辺俊樹(名古屋大学環境学研究科)  
13:35  地震波形 山中佳子(東京大学地震研究所)       
14:00  震度分布 武村雅之(鹿島建設小堀研究室) 
14:25  津波解析 谷岡勇市郎(北海道大学理学研究院)
14:50  地殻変動 鷺谷 威(名古屋大学環境学研究科)
15:15  地下構造 小平秀一(海洋研究開発機構IFREE)
(休憩)10 分 

II 部  パネルディスカッション
15:50   
パネラーは上記の講演者5名.司会 安藤雅孝
   1)1944年東南海地震の震源域はどこか?
   2)想定東海地震があるとすれば,それはどこか?
   3)今後へ向けた提案(どんな地震を想定する必要があるか)
17:00  終了


「徹底討論−次の東海地震はどこだ」 開催の背景と概要

○昨年秋の名古屋での日本地震学会でも話題になったように,1944年東南海地震の震源域に関して、中央防災会議や地震調査推進本部とは異なるモデルが提案されています。なぜそのような提案がされたのか?それはどんな意味を持ち,想定東海地震にどのような影響を与えるのか?今後はどのような調査観測,防災対策が必要なのか,などを徹底討論します.
○まず,講演者はそれぞれの立場から、1944年東南海地震の震源域は「どこか」、「どんな破壊過程なのか」について説明し,東海地震についても触れます.
○パネルディスカッションでは、新しい東南海地震の総合震源モデルを作りだすよう議論を行います.会場からも質問や意見を受ける予定です.

(名古屋大学大学院環境学研究科地震火山・防災研究センター教授 安藤雅孝)

徹底討論!!!「次の東海地震はどこだ!?」の感想

この企画は、東京大学の山中佳子博士、鹿島建設(株)の武村雅之博士、北海道大学の谷岡勇市郎博士、名古屋大学の鷺谷威博士、海洋研究開発機構の小平秀一博士という5名の専門家を向かえ、第一部では最新の成果報告を行っていただきました。また第二部では、名古屋大学の安藤雅孝博士を交えて、それぞれ、地震波形、震度分布、津波波形、地殻変動、地下構造の観点から、切迫しつつあると考えられる東海〜東南海地震について、パネルディスカッション形式の討論会が行われました。その中で最も印象に残ったのは、『未だ1944年の東南海地震の震源モデルは完成されていない』ということでした。1つの地震という自然現象に対して、様々な観測データを用いて議論しているものの、それらに食い違いがあるということは、いったい何故なのかと考えさせられました。また、地震発生予測には、人間の予想を超えるような不確定要素が存在するということも常に頭の中に置いておかなければならないと納得させられました。さらに、このように異なる分野のパイオニア達が1つの土俵の上で議論しあう場面を見る、またその議論に参加できたことも、非常に有意義であったと感じました。

(名古屋大学大学院環境学研究科地震火山・防災センター研究員 渡部 豪)



講演者への事前アンケート (2007/01/12)
講演者氏名(講演順) 質問1.1944年東南海地震の最適な震源域を示してください.推定に幅があればそれも一緒に書いてください.
質問2.次の東海地震の震源域を示してください.推定に幅があればそれも一緒に書いてください.
質問3.現在の大震法に基づく東海地震の防災体制についてのお考えをお書き下さい.
質問4.南海トラフ巨大地震に関する調査観測,防災対策などについて,ここが重要と考えられることをお書き下さい.

山中佳子氏
(東京大学地震研究所)
1. 解析から求まった大きなアスペリティ+震源付近
2. 東海地震単独では起こらないと思う.東海地域にも小さなアスペリティは存在するのかもしれない.それが東南海地震に連動してすべることもあるのだろうと思うが,ひずみの蓄積率も低いのでそれほど大きなアスペリティはないだろうと思っている.
3. 大震法や東海地域の防災体制については勉強不足でよくわからない.が,東海地域を襲う巨大地震は東南海地震と連動する可能性もあるので,東海地域に特化した体制というよりは東南海地震も視野に入れた防災体制が必要だろうと思う.
4. 最近南海地域での調査観測も盛んに行われるようになったようですが具体的には我々もよくわからない.関西方面の防災対策についての現状を知らないのでよくわからないが,昭和の南海,東南海地震のころに比べ太平洋側地域の開発がかなり進んでいると思うので地域住民に防災意識の喚起は必要かもしれない.

武村雅之氏
(鹿島建設株式会社小堀研究室)
1. 震源域は、西は、三重県と和歌山県の県境沖から東は御前崎沖近くまで広がっていたと考える。熊野灘沖の小さいアスペリティと、志摩半島から浜名湖にかけての沖の大きいアスペリティに対応して,それぞれの北東側に短周期地震波発生域があった。
2. 駿河湾単独で発生する場合は、御前崎より駿河湾側に震源域をもつ地域(上記1944年の東南海地震の震源域に隣接する地域)、あるいは、駿河湾内は動かず東南海地震が繰り返す。あるいは安政東海地震のように両地域が連動する。揺れの強さは連動した場合が最大で、地震対策には、最悪ケースとして、安政東海地震相当の震度分布を想定しておけばよい。
3. 大震法そのものというより、地震防災について最近分からなくなってきた。例えば、地震に対しては建物の耐震補強の推進が必要だというが、それ以前に未来を担う子供達を老朽化したボロ校舎に押し込めておいてよいのかという問題、耐震補強をしようにも、お金がない年金暮らしのお年寄り世帯を放っておいてよいのかという問題。さらには地震が起こった時に家族や隣近所が助け合う体制が必要だというが、すでに普段から、子育てノイローゼになるような母親が出るほど隣人の繋がりが希薄な社会でそもそもいいのかということなど。結局我々がじわじわ進行する社会問題に目を背けているのを、地震によって目を背けられなくされているだけではないかということ。新潟県中越地震の復旧に尽力されている方がおっしゃった。「地震が無くても、この先10年もすれば、過疎と高齢化で雪下ろしもままならなくなる山村がいっぱいあるのです。地震による被害の復旧というが、元に戻しただけでは何の解決にもなっていない」と。地震予知ができるとかできないとかの議論も必要かもしれないが、もっと重要なのは、地震に強い社会というのは普段からバランスの取れた社会であるということをもう一度考える必要があるのではないか。そのようなバックグラウンドがあってはじめて大震法も生きるのではないかと漠然と考えている。
4. 南海トラフ巨大地震に対して、被害を最小限にするために地震対策を進めることは重要だが、それでも被害は出る。その時にだれがどんな体制で被害の調査をするのか。調査に必要な判定基準、人、機材は確保されているのか。また被害を受けた地域を復興する青写真を各自治体は整備しているのか。ただ元に戻す復旧では、地震に弱い街に戻るだけで、次々回の地震でまた同じように被害を受ける。東京が地震に対して危険だと言われるが、関東大震災で焼けた下町はその後に大規模な区画整理がすすめられ、震災前に比べて各段に地震の危険度が下がった。そればかりか今の東京が近代都市として首都で有り続けてこられたのは震災後の復興によるところ大であることを頭にいれておく必要がある。今生きている人間が地震に対して安全に暮せるようにすることはもちろん重要だが、地震の経験をいかに後世に伝えてゆけるかも地震が起こる前から、同時に考えておく必要がある。それが地震国で暮らす国民の義務であると思う。

谷岡勇市郎氏
(北海道大学理学研究院)
1. 相田(1979)とほぼ同じだが、北は渥美半島にかかるかかからないかまで。 (資料参照)
2. 過去の南海・東海地震でまったく同じ地震と安政、昭和等)。そのような状況で次の東海地震の震源域がどのように言えるものがない(明応、慶長、宝永、安政、昭和等)。そのような状況で次の東海地震の震源域がどのようになるかが分かるとは到底思えない。
3. なし
4. 慶長のような津波地震も含めた災害軽減対策を作る必要。 


鷺谷 威 氏
(名古屋大学環境学研究科)
1. 地殻変動からは西端の議論は無理。串本は沈降なので、それよりは東という位。東端はプレート境界面としては浜名湖付近。そこから東は、袋井〜掛川付近の下でやや高角の分岐断層が生じたと考える(沈み込んだ海嶺の前面部と いうプレート境界の可能性もあり)
2. (可能性が高いと思う順)・熊野灘〜遠州灘 ・熊野灘〜駿河湾 ・駿河湾〜四国沖 ・想定東海地震単独(これも否定できない)
3. ・予知を前提とした防災体制は科学的な裏付けに乏しい。・科学的な側面に関しての評価体制が不備。・地震予知は、東海も含めて防災という呪縛から解き放ち研究レベルに戻した方が良いと思う(現行の観測は全部でないが維持する必要あり)。
4. 科学的な観点から ・東海地域(駿河湾、富士川河口、掛川〜浜松など)の徹底的な地下構造調査はぜひやるべき。・歪み、傾斜、地下水等の精密観測網はきちんと維持し、更なるデータの有効利用を図るべき。・古いデータの確保、集積、有効利用。 研究体制について・政策の決定過程に不透明な部分が多い(紀伊半島沖の海底ケーブルなど)。研究者のグループがイニシアチブを取り、よりオープンな議論を通して進めるべきではないか。

小平秀一氏
(海洋研究開発機構IFREE)
1. 熊野灘から東海沖。ただし、東海沖に沈みこんだ海嶺部分までは破壊は及んでいない。
2. +海嶺域
3. 政策的なことは素人なので分かりません。ただ、次の地震はいわゆる狭義の「東海地震」ではなく、少なくとも熊野灘から東海沖まで破壊するような、1944地震より大きな地震も考慮した対応をすべき。
4. 南海トラフ地震の破壊開始点付近である、紀伊半島沖での海底地殻変動・地震観測。これで、巨大地震発生の前駆的地震を捕らえる。






(タイトルおよび写真提供:名古屋大学災害対策室助手 林 能成)



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